15年目の小さな試練
 その急な動きとテーブルを叩くようなドンッという音に、ハルがビクッと身体をふるわせた。

 やめてくれよ、ハルを脅かすなよ。
 さすがに、これくらいでどうかはならないけど、そう言うの、心臓には良くないんだぞ。

「入らないって、言ってるだろ」

 思わず声のトーンがグッと下がる。

「……カナ?」

 オレの冷たい声に、それを向けた淳ではなく、ハルが驚いたようにオレを見た。

 いかんいかん。ハルを怖がらせてどうする。

 大丈夫だよと手を伸ばし、お箸を持ったままに固まっているハルの手を取った。
 今日もハルの手は抜けるように白くてすべすべで、ひんやりしていて気持ちいい。ああ、この感触も久しぶりだ。(布団にくるまってる起き抜けは、もう少しあったかくて、その感触はもちろん朝、楽しんだ)

 深夜0時過ぎに家に戻って、久しぶりにハルの顔を見た。寝顔だけど、本当に感慨深くて、ぽっかりと穴の開いていた心が暖かいもので……ハルで満たされた。
 それから、まだたった半日しか経っていない。

 そうだよ。オレは淳の顔より、ハルの顔を見てご飯を食べたい。

 それに、こんなところでハルの時間を取ってしまったら、後が大変だ。ハルは食べるのがゆっくりだし、消化に悪いから慌てさせたくもない。

「悪いけど、オレたち3限もあるから、その話、またでもいい?」

 またと言いつつ、聞く耳を持ってる訳じゃないけど。

「あ、いや、俺も3限あるから長話するつもりはないんだけど」

 と淳は食堂の壁に掛かった時計に目をやって首を傾げた。まだ昼休み終了まで五十分近くある。
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