15年目の小さな試練
 水曜日の放課後、型の見本を見せて、部員たちの練習を見た後の休憩時間。スポーツドリンク入りの水筒を片手に壁際に置かれたパイプ椅子に座るハルのところに行くと、

「カナ、すごい! すごく素敵だった!」

 ハルは珍しく興奮し、目をキラキラ輝かせて、パイプ椅子から立ち上がってオレを見た。

「あのね、何ていうのかな、ものすごく綺麗だったの! とっても!」

「えっと、ありがとう」

 ハルの隣では、同時に立ち上がった兄貴が興奮気味のハルを笑顔で見守りつつ、ハル同様に


「うん、ホント、すごく良かった」

 と誉め言葉をくれた。

「叶太、お前、本当に空手できたんだな」

 兄貴、それはちょっと失礼だと思う。
 一応、段位持ちなんだけど、これでも。

 でもまあ、空手をやっているオレを見るのは、兄貴も小学生の時以来。あの時は組手だったから、兄貴にも型を見せるのは初めてだ。

「えっと、ハル、この後、組手やるんだけど、……具合悪くなったら、言ってね?」

「え? 大丈夫だよ」

 ハルはまだ目を輝かせたまま、嬉しそうな満面の笑みでオレを見ていた。

 いや、でも、ハル、型と組み手って全然違うから。

 これまでやった基本練習と型では、対戦相手ってものはいない。
 だけど、この後の組手は、言い方は悪いけど、言ってしまうとルールのある殴り合いだから。

「兄貴、頼んだよ?」

「ああ、大丈夫。それは任せて。……けど、そんな激しくやらないだろ?」

 うん、確かに。
 しっかりやれる相手は、今日はいない。
 金曜日には、黒帯の先輩も何人か来るらしいけど。
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