15年目の小さな試練
 そして、そのシーズンの最後の試合が終わった後、オレは試合に出るのはきっぱり止めた。

 そもそも、全国大会に出ようと思ったら、幾つもの試合に出て、相応の結果を残す必要がある。すると、ハルに会える時間も減る訳で、それもオレの本意ではないと気が付いたんだ。

 それでも空手は好きだったから、以降は自己鍛錬のためだけに続けてきた。

 ハルが具合を悪くした年に、もう一度試合を見せようなんて話が出る訳もなく、その後はオレが試合に出るのを止めた、そんな事情もあって、これまでハルにオレが空手をするところを見せる機会はなかった。

「あのね、カナ、わたしもう平気よ? 小学生の時みたいな事はならないからね?」

 いや、ハル、言いたいことは分かるけど、やっぱりオレ、すごく心配。

 だから、兄貴の付き添いは絶対だよ? 兄貴の予定、まだ聞いてないけど。

 だって、同じ場所にいたとしても、稽古に入ったら、ハルの事を見てはいられない。
 誰かを教えているような時じゃなくたって、基本稽古の時でも、型を打つ時でも、幾らオレがハルを心底愛していても、それはできないから。

「……きっと大丈夫だと思うよ? だけど、ハル、気分悪くなったら、すぐに教えてね?」

 まずは兄貴に、その後はオレに。

「カナの心配性」

 ハルはオレがまったく信じていないのが分かったみたいで、そう言って笑いながらも、何かあったらすぐに言うと約束してくれた。



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