15年目の小さな試練
「……え?」

「ハルちゃんに、兄ちゃんのピアノ聴かせるって約束したんだ!」

 聞いてないぞ!

 と目を丸くした俺は悪くないと思う。

「ハルちゃん、うちの兄ちゃん、すごっく上手いんだよ。ミナ先生なんか、目じゃないんだぞ」

 叶太の言葉に頭が痛くなる。

 だけど、明仁の腕の中のハルちゃんは期待に目を輝かせていて、明仁はと言うと、同情の混じった視線を向けてきた。その視線が何だか悔しくて、叶太の無邪気な

「兄ちゃん、リビングのピアノでいいよね?」

 という言葉に、思わず言ってしまった。

「ピアノ室の方に案内して」

 その言葉に明仁が目を見張った。

「分かった! こっちだよ!」

 そうして、その前年、増築して作ってもらったピアノ室へと二人を案内して、秋のコンクールで弾いた曲を披露した。

 ハルちゃんは俺の演奏に頬を上気させて小さな手で力いっぱいの拍手をくれた。音楽なんてまだ分からないはずの幼児からの称賛も嬉しかったけど、それよりも、何事にも冷めている明仁の

「お前……すごいな。正直、驚いた」

 という本気の称賛が何より嬉しかった。

 その後、叶太や明仁に連れられて、ハルちゃんが遊びに来るようになり、何度かに一度はねだられてピアノを弾いた。

 ハルちゃんが家に出入りするようになってから、一年が経った頃、

「はるなもね、一年生になったら、ピアノ、習うんだ」

 そう言って、嬉しそうに笑っていたハルちゃんの幼い笑顔を思い出す。

 小学校入学前のお誕生日プレゼントはピアノだった。

「はるなのピアノだよ」

 と嬉しそうに見せてくれた時のキラキラ輝く瞳を思い出す。
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