15年目の小さな試練
 そして、それからわずか数ヶ月後の明仁の言葉。

「陽菜、ピアノやめたんだ」

 入学式の後、新しい環境のせいか体調が今一つ良くないと、ハルちゃんはしばらくうちに来なかった。

 学年が上がり明仁とも違うクラスで、しばらく会わない間の事だった。

「……そっか」

 あんなに喜んでたのに。

 小さなハルちゃんの胸の内を思うと、心が重くなった。



   ☆   ☆   ☆



「一年生の時だっけね?」

「うん。パパにピアノまで買ってもらったのに、ね」

 ハルちゃんは少し遠い目をした。



 元々小さかったハルちゃんは、小学校に入学した時にもまだまだ小さくて、幼稚園の年中さんくらいの大きさしかなかった。
(年中さんの時には制服を着ても年少さんに見えるかどうかくらいの大きさで、叶太と並んだら、二歳違いの兄妹に見えたくらいだった)

 毎週、車でピアノの先生のところまで行っていたらしいけど、乗り物酔いもあったみたいで、結構大変だったと聞いた。

 ちゃんとした先生に習わせる以前に、音楽に親しむくらいの気持ちで近所の教室に通わせてあげれば良かったのだろうと思う。だけど、その頃は俺も小学生だったし、口を出せる立場になかった。

 明仁はあの頃からハルちゃんを溺愛していたと思うけど、ハルちゃんの話をぺらぺら話すようなタイプでもない。

 そもそも、小五の三月にピアノを見せてもらい、小六になった四月、

「陽菜がピアノ、習い始めたよ」

 と聞いた後、次に聞いたのがピアノは止めたという話だったくらいで、口を出すタイミングもなかった。
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