15年目の小さな試練
「……いや、オレのせいだよね?」

 そんな風にもめた後で、その相手と付き合い続けるかどうかはともかくとして、別れることになったきっかけは間違いなくオレだろ。

「むしろ、ありがとう、だよ。薄っぺらい人間関係しか築けなかったのは情けなかったけど、そういう人間だって、早く気付けて良かったと思う」

 兄貴は自嘲するようにそう言った。
 穏やかな兄貴がそこまでの嫌悪感を抱くくらいには、元彼女さんは嫌な言葉を口にしたのかも知れない。
 きっと、オレには言わない何かがあったんだろうな、と思うと本当に申し訳なくなる。

「えーと、なんか色々ごめんね?」

 こんなの話していて気持ちいいものじゃないだろう。
 だけど、兄貴はオレが気にしていたから教えてくれた。オレの頼みを何だかんだ言って聞いてくれるところとか、こう言うところとか、本当に優しいと思う。

「いや、遅い時間に長電話、悪かったな」

「ううん。オレは全然、大丈夫。ホント、ありがとう」

「いや。じゃ、また」

「うん。おやすみ!」

「おやすみ」

 兄貴との電話を切って、ふと思う。
 いつか、兄貴にも本当に愛し愛される相手が見つかるといいな、と。

 そして、ハルとの出会いが本当に得難い、かけがえのないものなのだと改めて実感する。

 今日はもう寝よう。

 無性にハルの温もりが恋しくて、オレはやろうと思っていたレポートを放置する事に決め、いそいそと寝室に入るとそっと布団をめくって、ハルの隣に潜り込むのだった。
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