15年目の小さな試練
 そう言われても、正直、今一つ思い出せない。

 だけど、いつだって誰かに迷惑かけてばかりのわたしは、できる限り、ありがとうの言葉を口にしようと心がけていて……。だったら、きっとあの日もちゃんと言えたんだろうなと思う。

「あのさ、具合悪いときは、気にせず頼りなよ」

 田尻さんが真顔で言う。

「あとね、我慢は身体に悪いと思うよ?」

「……え、っと?」

「あの時だってさ、結構我慢してたんじゃない?」

「……そうだっけ」

「ああ、まあいいや。おしゃべりしてたら、間に合わないんだっけね。いちいちちゃんと答えないでも大丈夫!」

「……はい」

 田尻さんは相変わらずで、そんな風にぶっきらぼうな口調なのに、わたしのことを最大限気遣ってくれる。

 久しぶりのやり取りが、すごく嬉しかった。

 気遣ってくれるのに、腫れ物に触るような扱いにならないのって、多分、田尻さんだけだもの。

「ハール」

 カナに呼ばれて顔を上げると、カナはニコッと笑った。

「手、止まってるよ?」

 ……あ。

 見ると、お箸は宙に浮いたままで、田尻さんがせっかく気を使ってくれたのに、わたしのお弁当はまるで減っていなかった。

「ごめんなさい」

 思わず謝ると、

「謝るようなことじゃないし」

 とまた田尻さんがぶっきらぼうに言う。

「そんな気使うような仲じゃないでしょ。適当にしゃべってるから、牧村さんは適当に聞きながら、食べてればいいよ」

 口調はぶっきらぼうなのに、目が合うと、珍しくニコッと優しく笑ってくれた。笑顔の田尻さんは思わずハッとするくらい可愛かった。

 だけど、すぐにいつもの田尻さんに戻ってしまい、

「はい、幸田くん、なんか面白い話して」

 と、幸田くんに無茶ぶりして、その場は笑いで満たされた。


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