15年目の小さな試練
 そんなわたしたちのやり取りを見ていたカナが、

「そういえば、……」

 と姿勢を正した。

「お礼が遅れてごめん。和樹、田尻、ありがとう」

 突然、頭を下げたカナに二人は何事かとカナを凝視した。

「五月、オレが休んでた時、ハルの事助けてくれたでしょう? 本当にありがとう」

 カナは真顔で二人を見る。

「いつの話だよ」

 幸田くんが笑って返した。

「お礼言われるようなことじゃないし」

 田尻さんは一見つっけんどんな言葉を紡ぐ。だけど、逸らした視線と少しだけ赤くなった頬が照れているだけなのだと教えてくれる。

 そして、田尻さんへのカナの態度が軟化したのは、そのせいかと思い至る。

「いや、でも本当に助かったから」

 と、カナがお礼を続けようとしているのを見て、ふと思い出す。

「あの……わたしもお礼言ってなかったよね? 本当にあの時はありがとうございました」

 ぺこりと頭を下げると、幸田くんは慌てたように言う。

「ちょっと、ハルちゃんやめてよ。なんか他人行儀で逆に寂しいし」

「お礼なら、あの時言ってもらったと思うけど?」

 田尻さんはそう言って苦笑い。

「ホント、相変わらず律儀で真面目だよね」

「……お礼、言ったっけ?」

 あの時、医務室に着いた頃には、もうまともに言葉を話せないくらいには、調子が悪かった気がする。

「言ってた言ってた」

 田尻さんは苦笑いしながら続けた。

「だって、牧村さん、青い顔して息切れてるのに『ありがとう』って言うし。私、それ聞いて、ホント、律儀だよなぁ、お礼なんていいのにって思ったもん」
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