15年目の小さな試練
 最後の一音の余韻が消えると同時に、部屋の中には拍手が鳴り響いた。

「ハル、すごい!」

 気が付くと、カナが斜め後ろに立っていた。

「すごく綺麗だった!」

 カナは興奮気味にそう言ってくれた。

 わたしも、初めての曲にしてはちゃんと形になったと思う。
 だけど、正直、カナの言葉があんまり大げさだったから、逆に恥ずかしくなってしまう。

 次に聞いてもらう時には、もっと上手になっていよう。

「えっと……精進します」

「え? なんで、そうなるの?」

 カナは不思議そうに首を傾げしながらも、楽しそうに笑った。

「お嬢さま、本当にとても素敵でしたよ」

 知らぬ間に、沙代さんまでリビングにいて、なぜか涙ぐんでいた。

「お嬢さまがピアノを習いたいと言った時のことを思い出してしまいましたよ」

 それは、小学校に入る前のことかしら?

 沙代さんは、わたしが生まれる前から家にいて、ママよりもわたしのことをよく知っている。沙代さんの言葉に昔のことが思い浮かび、わたしも目頭が熱くなる。

 あの時は、ピアノまで買ってもらって音楽教室に入れてもらったのに、結局、一ヶ月も通うことができなくてやめてしまった。

 だけど、十年以上経った今日、ようやく曲らしい曲を弾ききることができた。

 こんなくらいでおかしいよと自分で思うのに、なぜか目頭が熱くなる。

「……沙代さん、いつもありがとう」

 そう言うと、沙代さんはとても優しい笑顔を浮かべた。
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