15年目の小さな試練
「……スマホケース?」

 オレンジ基調、ビタミンカラーの太めのストライプ柄のスマホケースを見て、ママが目を輝かせる。

「いいねぇ、この色!」

「ホント? 気に入ってくれたなら嬉しい」

 ママの愛飲している栄養ドリンクのイメージカラーもオレンジ。目からビタミンが取れる訳じゃないけど、少しでも元気が出るようにって選んだ生地。手帳型のケースの裏地は無地の少し渋い緑。

「私は青か。いいねぇ」

 パパにはママとは色違いのブルー系のストライプ生地。青は青だけど、黄色や緑も入って落ち着いている中にも明るさのある色味。裏地は深い赤。
 パパは早速、ポケットからスマートフォンを出してカバーを替えだした。

「あら、可愛い!」

 お義母さまが笑顔をこぼす。その手にあるのは、パールピンクの光沢のある生地に意匠化した薔薇と蔦の模様。裏地は甘すぎない深いピンク。
 カナの実家には、よく薔薇が飾ってあったし、ティーカップの意匠も薔薇だった。薔薇が好きだと聞いたこともあるってことで、この柄を選んだ。気に入ってもらえたなら、本当に嬉しい。

「まあ! なんて素敵なのかしら」

 おばあちゃんには、牡丹色と黄色に染まった絞りの浴衣生地。今日もピシッと着物を着こなしているおばあちゃん。迷った時に思いついたのは、やっぱり和のものだった。

「あら……ちょっと待って? この色、この柄……」

 おばあちゃんは手に持ったスマホケースをまじまじと見つめた。

「ねえ、陽菜。これって、もしかして陽菜の手作りなのかしら?」

 スマホケースから目をあげると、おばあちゃんは今度はまじまじとわたしの顔を見た。

「あ、そうなの。ごめんね、おばあちゃんのは古布を使ったの。あの、……前に虫に食われちゃったから浴衣としては着られないけど、生地としては良いものだからって、手芸用にいただいたでしょう? あれを使ったの」

 わたしが言い訳めいた言葉を言っている間に、なぜか場がどよめいた。
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