15年目の小さな試練
 叶太もバイトはしていなかったと思うけど、こいつの場合、既に仕事を持っているようなもんだから、それはいいだろう。部活をやらないのも、叶太の場合は自分の意思でしかないし。

 ちなみに俺は、社会経験を積むべく、学部生の頃には割と色んなバイトをはしごしていたし、人並みにはサークル活動なんかもしていた。飲み会にも出ていたし、今もそれなりの付き合いはある。

「そんな色々我慢してるのに、嬉しそうに勉強してるのまで、止めるのかって思ったら……なんか、さ」

 確かに、ハルちゃんの生活は、まるで大学生っぽくはない。いや、高校生だってもう少し遊んでいる気がするくらいで……。

「ハルね、高等部までは毎晩九時には寝てたんだよ」

「……早いね」

「だろ? で、今は課題が多くて、毎晩十時くらい」

「それでも、早いな」

「うん。高等部までは、土日のどっちかは、ほぼ一日寝てたんだけど、最近は半日昼寝ができるかどうか、かな」

「……えっと、土日に寝るのは、身体を休めるため?」

「そうそう。身体を休めるって言うより、疲れて起きられない感じなんだけどね」

 叶太は当然のように言うけど、ハルちゃんの生活はホント、俺が思っていたよりずっとストイックだった。いや、ストイックって言うか、制限が多い?

「夜九時までには寝ろって言われるのって、小学校の低学年くらいまでかな? 俺、三年か四年の頃には、もう十時まで起きてたような気がするんだよね」

 叶太が自分の子どもの頃のことを口にした。
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