15年目の小さな試練

嬉しかった理由

 集団生活を始めた幼稚園の年中さんの年から高校生まで、いつだって、わたしは特別気にかけておかなきゃいけない手のかかる子どもだった。

 走れないどころか早歩きすらできない。体育はすべて見学。朝礼すら、まともに参加できない。
 すぐに熱を出す。食べすぎれば気持ち悪くなる。少し無理しただけで倒れる。

 特に持病が、何かあったら即命に関わる心臓病だったので、より手をかけさせていたと思う。

 幼稚園に入園してすぐに、先生がちょっと席を外した間に走ってしまい、発作を起こして倒れて死にかけて、生死の境をさまよって、半年もお休みして……そんな事があったから、余計、小学校以降でも腫れ物に触るような扱いを受けたのかも知れない。

 その後はもちろん、走るどころか歩くときだって気をつけて生活していたのだけど、中学でもまた学校内で倒れて死にかけて、数ヶ月休んだ。きっと、先生たちは改めて、わたしのことを目を離したら死んじゃいそうな危ない子だと認識しただろう。

 そんなだからか、小中高の十二年間でお世話になったどの担任の先生も、誰一人、もっと勉強しようねなんて言わなかった。宿題だけはやろうねとすら言わなかった。

「無理しなくて良いからね?」

「身体を一番に考えてね?」

 いつもそう言われていたから、逆に不安になって、少しでも体調の良い時には予習しておく癖ができた。

 それでも夏休みに長期入院したりすると、やっぱり宿題が終わらないことなんかもあったのだけど、一度も怒られたことはなかった。むしろ頑張って全部こなしても、誉められるよりも身体の心配をされる事の方が多かった。
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