15年目の小さな試練
 それは、ありがたい気遣いだった。無理をしろと言われても、できない時もあるから。

 だけど、宿題に追われて嘆く子たちを見ていると、親がうるさいと文句を言う子たちを見ていると、羨ましいと思うのを止められなかった。

 そして、少しの無理もできない自分は、いつか置いてけぼりになるんじゃないかと、いつも心のどこかで焦りのようなものを感じていた。
 



 だから、大学生になって、他の子と同じように大量の課題やレポートを出されると、当然のように、それをこなすのを求められると、何だかとっても嬉しかったんだ。

「ほんっと、課題多いよね~。大学ってもっと遊べるところかと思ったよ」

 新しく知り合った子たちの、そんな言葉に

「本当にすごい量だよね」

 と返せるのが嬉しかった。

 確かに課題は多いのだけど、事前に予習しておいたおかげか、こなせない量ではなかったのも良かった。

 そして、課題が多くて大変な授業の筆頭が、習熟度別の課題が出る演習1の授業だった。
 担当は山野准教授。キリッとした感じの綺麗な女の先生。四十代らしいけど、三十代前半にしか見えない若々しい方で、結婚はされていないらしいと聞いた。明るくハキハキと、断定的に語られる先生の話はとても面白かった。演習だから、先生の話は少なくて、それが寂しく感じられるくらい。

 その山野先生の授業で、4月の終わり頃から習熟度別の課題が出されるようになった。

 頑張れば頑張っただけ、新しい課題をもらえる。それが、とても新鮮で楽しくて、放課後、机に向かうと時間を忘れて問題を解いた。

「できる限り、自分でやってね。そうじゃなきゃ力にならないから」

 最初に難しい課題を渡された時、山野先生に笑顔で言われて、もちろんと頷いた。



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