15年目の小さな試練
「可愛くて、お嬢さまで、おまけに頭まで良いなんて、いっそ清々しいくらい嫌味な子ね」

 口をとがらせるようにして、先生は言う。

 もう結婚しているわたしに、お嬢さまという呼称はおかしいんじゃないかな、とそんな事を思った。

 先生の目は、笑っていなかった気がする。
 だけど、表情はおどけて楽し気で、口調だってからかうようなものだった。

 だからこそ、そこに込められていたかも知れない別の意味には気付かないことにして、『お嬢さま』という言葉にだけ意識を向けた。



「私の授業なんて、牧村さんには必要なさそうね」

 くすくす笑いながら言う先生は、きっと傍目には機嫌が良いように見えたと思う。

 だけど、やっぱり、先生の目は笑っていなかった。

 先生が講義で解説する内容は、わたしがもらっているものより、はるかに簡単なものだったから、確かに、わたしは先生からはまったく教えられていない課題を解いていた……。



 カナのもらっている問題と、わたしがもらっている問題を見比べていた晃太くん。

 いつもとは違って、とっても硬くて真面目な表情をしていた。


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