15年目の小さな試練
 もの言いたげな気配を感じて視線を向けると、心配で仕方がないという顔をしたカナがいた。

「ハル、山野先生に言って、個人課題は止めてもらおう」

 カナの言葉に息を飲む。

 ずっと、カナが我慢してくれているのは分かっていた。

 言いたくて仕方ないけど、わたしが喜んでいるから、楽しそうにしているから、多分、カナは我慢してくれていた。

「……でも」

 受け入れなきゃ、と思いつつも、反射的に否定の言葉が零れ落ちた。

 体調的にも限界なのは、わたしも分かっていた。これ以上の我儘は言えない。カナは、もう充分に待ってくれたから……。

 それでも、頷けずにいると、カナが真顔で聞いてきた。

「ハルは、何がイヤ?」

「え?」

 何を聞かれたのか分からず、思わずカナの顔を見返す。

「ハルがイヤなのは、何?」

 カナはもう一度聞く。

 嫌なこと……?

 わたしは、何が嫌だったのだろう?

 嫌なこと、嫌なこと、嫌なこと……。

 楽しかったのに、という事しか考えていなかったから、嫌なことと聞かれても、パッとは思いつかなかった。

「教えて、ハル」

 カナはまた聞いてきた。

 ……わたしが、嫌なこと。

 冷静に考えたら、ただ「みんなと同じように課題をもらいたい。やめたくない。やめるのが嫌」と答えれば良かったのかも知れない。

 だけど、その時のわたしは、そんなことには気付かず、カナの「教えて」の言葉を受けて、「何がイヤ」なのかを探る思考の海に潜り込んでいった。
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