15年目の小さな試練
 何より、そういう行動は本来、教師が取るべきものではないよな?

 教育者だって人間だから、多少は顔に出たり嫌みを言ってしまったりはあると思う。それは仕方ないと分かってる。だけど、今回のは、そういうレベルじゃないと思うんだ……。

「ハル、だけどさ。もし他の子が同じ目に遭ってたら?」

「……同じ、目?」

「例えばさ、すっごく美人な女の子が先生に嫉まれて、ハルみたいに無理を強いられて、……で、心を病むようなことになったりしたら、どう思う?」

 いや、ハルは無理を強いられたというのとは違うかも知れない。無理だと言わずにやり続けただけで……。

 だけど、眠気に侵食されたハルの思考は、そこに引っかかりを覚えなかったらしい。

「……こころ?」

「うつ病とか」

「……うつ、病。……それは、大変…だね」

 途切れ途切れに、夢の世界に片足を突っ込みながらも、ハルは言葉を紡ぐ。

「でしょ? だから、ちゃんと釘は指しておかないと」

 ハルが身じろぎして、オレの手を探して握った。

「……わたしが、話す」

「ん? 学長室、一緒に行く?」

「……ううん。……山野先生、と、わたしが…話すの」

「え?」

「……だって、わたしの、ことだよ。……ちゃんと…話す、から」

 ハルはその言葉を最後に、スーッと眠りに落ちてしまった。

「……えっと、で、ハル、なにを話すの?」

 だけど、オレの質問に眠ってしまったハルからの答えが返ってくることはなかった。
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