15年目の小さな試練

相談事

「ハルちゃん、今日はここまでにしようか?」

 レッスンを始めて、二十分。
 二曲目に入ってから2回目のレッスンだった。

 退院してすぐの先週、新しい曲を渡して教えはしたものの、毎日の練習は無理にする必要はないと伝えた。なのに、ちゃんと練習してあった。疲れてると思うのに、それでもやってしまう生真面目さはすごいと思う。

 ただ、ピアノは身体に鞭を打ってまで弾くようなものではない。音大を受験するとか、本職のピアニストとかなら別だけど、ハルちゃんの場合は趣味で楽しむだけなのだから。それは、ちゃんと言っておかなくちゃとも思う。

「……ごめんなさい」

 俺がなぜ止めたのか、ハルちゃんは分かったのかな?

「なに謝ってるの」

 いかにも申し訳なさそうなハルちゃんの顔を覗き込み、思わず頭をなでてしまう。

「疲れてる? ……というか、なにか悩みある?」

 体調があまり良くないのは叶太から聞いている。

 先週の月曜日に退院して、火曜日から週末までは何とか登校して、その後、土日にまた熱を出して寝込んでいたという。そうして、また始まったウィークデイ。

 ハルちゃんは多少の不調では疲れた顔など見せないから、多分、普通に一緒にいるだけだったら気付かなかった。

 だけど、音には出るんだよなぁ。

 そして、疲れ以上に、迷いを感じた今日の音。

「……えっと、……はい」
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