15年目の小さな試練
「そりゃ、愛しい妻が、いつもお世話になっている人たちにお礼をしたいって言ったら、オレだって一緒に何かしたいよな?」

「……そんなこと、」

 と続けようとした言葉は、ママの声に掻き消えた。

「あー、熱い熱い。も、2人の熱でケーキが溶けちゃうわよ」

 ママの言葉に、みんな、大笑い。一部では膝を叩いて爆笑してる人もいる。

「ケーキ、溶けないし!」

 と笑い続ける晃太くん。ヒドイ。隣のお兄ちゃんも笑いながらわたしたちの方を見た。

「さ、食べよ食べよ」

 にやにやこちらを見ながらの、からかい混じりのママの言葉に、とうとう耐えられなくなって、わたしは振り返って真っ赤な顔を後ろにいたカナの胸に押し付けた。

 だけど、そんなわたしを笑い飛ばすママや微笑ましく見守ってくれるみんなのおかげで、なぜかしんみりしていた空気はすっかり飛び去り、室内は一気に活気付いた。そのまま、そこここで話の輪ができる。

 いつもありがとうとお礼を渡して、場が暗くなるのは本末転倒だもんね。
 まあ…いっか。
 ため息まじりに小さく呟いて、カナの胸から顔を離す。

 カナがにこりと甘く笑い、そっと髪を撫でてくれた。

「ハル、本当にありがとう」

 カナが右手を上げると、そこにはわたしのプレゼントしたスマホケース。

「大事に使うね」

 カナのケースは渋めの水色に白い線画の葉っぱ模様。裏地は濃い青。

「うん。私の方こそありがとう」

 使ってもらえるなら、それが一番嬉しい。

 それから、カナに促されて席に着き、わたしたちもケーキに手をつけた。イチゴたっぷりのお義母さまのケーキは、今日もとても美味しかった。


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