15年目の小さな試練
「会いに行ってから、考えるの?」

「そう。課題を止めてもらうようにお願いするのが、一番の目的だよね?」

 聞かれて一瞬口ごもる。

「……うん」

 確かに、それは絶対言わなくちゃいけない大切な話。

「あれ? 違うの?」

「……そうなんだけど」

 だけど、それだけだったら、カナが言うように学長先生に話を通せば済むのだとも思う。
 それでいいじゃないって、どうしても思えなかった。何か違うって気がしてならなかった。

 カナにやってもらっちゃダメだし、学長先生にお願いするのでもないとは思う。そして、自分で山野先生と話さなきゃいけないって思うのに、それがなぜかは分からなかった。

 そこが分からないから、何を話せばいいのかも分からなかった。

 分からないままに毎日は忙しく過ぎ、自分で話をしに行くと言ってから、もう一週間。いつの間にか七月に入っていた。

 いっそ、前期は今のまま課題をやってしまおうかと思ったりもした。だけど、既に下り坂の体調が暑さに負けて更に悪くなるまで、もう猶予がない。

 物理的にできなくなる前に、ちゃんと自分で片を付けておきたかった。

 なのに、山野先生に何を言いたいのかすら、わたしは分からない。

「うーん。そこで引っかかってるのか」

 晃太くんは顎に手を当て、何かを考えるように視線を遠くに向けた。

 そして数秒後、にっこり笑って視線を戻し、

「ハルちゃんは山野先生に何を伝えたいの?」

 と聞いた。
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