15年目の小さな試練
「ハルちゃん、今日はここまでにしようか?」

 ……あ……ピアノ。

 晃太くんは自分の大切な時間を使って教えてくれているのに、わたし、今、全然集中できていなかった……。

 指だけは何となく動かしていた気がする。でも、自分がどんな音を出していたのか、どこを弾いていたのかすら思い出すこともできない。

「……ごめんなさい」

 ……何をやっているんだろう。

 だけど、斜め後ろにいる晃太くんを振り返って謝ると、晃太くんは優しく笑いかけながら、

「なに謝ってるの」

 ふわりとわたしの頭に手を置いた。

「疲れてる? ……というか、なにか悩みある?」

 そう聞かれて、ちょっとだけ困惑。

 上の空だった自覚はある。だけど、わたし、そんなに分かりやすいかな?

 だけどその時、ふと、五月から何度か聞いた晃太くんの言葉を思い出した。

 晃太くん、いつでも、何でも気軽に相談してね、って、言っていたよね?

 相談、しても、いいのかな?

 わたしはその後、晃太くんに山野先生のことを相談した。

 話に行くにしても、まずどこで話せばいいのかから分からない。すると、晃太くんは研究室に行けばいいと教えてくれた。更に、山野先生の空き時間も調べてくれるという。

 だけど、今度は何をどうやって話せばいいのか分からない。

 そうしたら、晃太くんは優しく笑って、

「とにかく、まずは会いに行って、それから考えたらどうかな?」

 と言った。

 目から鱗。話すことを決めてから会いに行くしかないと思ってたもの。
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