15年目の小さな試練
「え?」

 伝えたいこと? わたしが先生に?

 言いたいことと、伝えたいことって、同じかな?

 だったら、それが分からなくて悩んでるのだと言ったら、なにか晃太くんはヒントをくれるかな?

「違うかな。じゃあ、何が聞きたいの?」

 ーーあ。

 聞きたいことなら、あるかも知れないと気が付く。だけど、パッと言葉にならなかった。
 わたしが心の中から言葉のかけらを集めている間、晃太くんは急かすことなく待ってくれていた。

 聞きたいこと……それは、知りたいこと、でいいのかな。

 ずっと心に引っかかっているのは……。

「……なんで、だったのかな、って」

「なんで?」

 そう。先生は、なんで教えてもいない内容を課題に出したのかな。

「ん。それから……もし、わたしが途中でギブアップしてたら、おかしな解答を出していたら、どうしたのかなって」

 そう口に出すと、胃の辺りがキュッと締め付けられるように痛んだ。

 先生の嬉しそうな笑顔がパッと脳裏に浮かび、消えた。

 ああ、わたしは、わたしが失敗したら、先生は喜んだんじゃないかなって思ってるんだ。

「先生は、わたしに……どうなって欲しかったのかな?」

 ギブアップを待ち望むとか、失敗を願うとか、少なくとも、先生が教え子に持つべき感情じゃない。

 わたしはきっと、普通に、他の子と同じように扱ってもらえるだけで、嬉しかったのに……。

 目頭が熱くなる。

 晃太くんが心配そうにわたしを見守ってくれているのが分かったけど、わたしは明るい表情を作ることができなかった。


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