15年目の小さな試練

試練の終わり

 久保田教授に手を引かれ、山野先生の研究室を出る。背後には、わたしを守るように晃太くんがいた。

 直接話さなきゃと思った。そうしなきゃ、先生が何を考えているかなんて分からないと思っていた。逆に言えば、話せば分かってもらえるとも……。

 甘かったな。

 苦い思いが胸を満たす。

「ハル!」

 部屋を出た瞬間、カナが駆け寄ってきた。

「大丈夫?」

 心配そうな、いつもと変わらないカナの顔を見ると不思議なくらいホッとした。
 カナが来ると同時に久保田教授がわたしの手をそっと放した。

「とりあえず、うちの部屋に来るかい?」

 久保田教授の言葉に晃太くんが

「いえ、山野先生が訪ねてくる気がしますし、今日は失礼します」

「ああそうか、確かに……」

 久保田教授は眉をひそめて、山野先生の部屋の方を振り返った。

「本当にお手間をおかけしました」

「いや、どう考えてもこっちの問題だ。巻き込んでもらえて、むしろ助かったよ」

 晃太くんの言葉に久保田教授は苦い表情で逆にお礼を言った。

「じゃあ、ハル、帰ろうか。車はもう来てるから」

 カナに肩を抱かれて、そのまま連れて行かれそうになって慌てて止める。

「ちょっと待って?」

 カナの腕から抜け出し、助けに入ってくれた久保田教授の方に向き直って

「ありがとうございました」

 と、深く頭を下げる。

 山野先生とは会話にすらならなかった。
 だけど、今、心の中が絶望でいっぱいではないのは、久保田教授のおかげだ。
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