15年目の小さな試練
 だけど……。

 それでも、自分がすべてを持っているとは思えない。

 すべてを持っている人なんて、本当はどこにもいないんだと思うから。

 ううん。この広い世界のどこかには、もしかしたらいるのかも知れない。

 でも、それは、わたしではない、そう思うのだ。

 もし、わたしがすべてを持っているのなら……。

 わたしは、自分が死んだ後のカナを心配したりしない。

 そんな未来に備えようなんて、きっと思わないから……。

 気が付くと、そんなことを考えながら、うとうとしていたみたい。
 車のドアが開く音で現実に引き戻される。

 だけど、閉じた目は重くて、起きなきゃと思うだけで目を開けることはできず、いつの間にかカナに抱き上げられていた。

「……ナ、……ぶん……」

 自分で歩くと言おうとしたけど、まともな言葉にならなかった。

「いいよ、ハル、寝ておいで。疲れただろ?」

 いたわるような優しい声と、カナのぬくもりに包み込まれて、そのまま意識はふわふわとまどろむ。

「お帰りなさいませ」

「ただいま」

「お嬢さま、具合が……?」

「んー、眠いだけだと思うけど、疲れがたまってるから、ちょっと心配」

 もやのかかった頭の中に、沙代さんとカナの会話が響いてくる。

 そのままベッドに寝かされ布団を掛けられる。
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