15年目の小さな試練
 ……ああ、そうだ。

 カナにお礼を言っていなかった、とふと思い出す。

 だけど、目を開けようと気合いを入れる前に、わたしの意識が半分覚醒しているのに気付いたのか、カナは

「夕飯まで寝ておいで」

 と言う。

「もう全部終わったから。安心して身体を休めよう」

 そして、優しく頭をなでられた。

 ……そうか。

 もう、あの課題を出されることはないんだ。

 終わったという言葉で、ふっと身体の力が抜ける。

「よく頑張ったね」

 ……もう、山野先生の言葉と歪んだ笑顔の意味を考え、密かに胸を痛めることはないんだ。

「お疲れさま」

 カナの大きな手がわたしの頭を、そして頬をなでる。

 カナの言葉に、そのぬくもりに、まだどこかに残っていた張り詰めた心が少しずつゆるむ。

 ……ああ、終わったんだ。

 ゆっくりと何度も行き来する手の暖かさに包まれながら、気が付くとわたしは本格的な眠りに落ちていった。
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