15年目の小さな試練
「読まないの?」

 落ち込んでいると、明兄はオレが手にしたままの封筒を指し示した。

「あ、読む」

 既にザックリ聞いたとは言え、やっぱり気になる。

 うわ、事務の人、3年前にやられて今でも心療内科に通ってるんだ……。
 院生は、研究者への道を断念して、一般企業に就職、か。
 あ、これはひどい。悪口を広められて、集団いじめに発展。子どもか!?

 三十五歳で結婚を考えていた男性と別れて以来、性格が更にきつくなったとか、よく調べてあるなぁ。

 ……ん?

 って、調査開始、五月かよ!?

「なに?」

「いや、明兄、ずいぶん早くから山野先生に目を付けていたんだね」

「晃太が心配してくれてたから、念のため調べてみた」

「……念のため」

 明兄、念のために一体、幾らかけてんだ。

「役に立っただろ?」

 オレの心を読んでか、明兄はあきれたように言う。

「ってか、明兄、これ使うの!?」

「親父にはもうとっくに渡してある。有効に活用してくれたと思うけど?」

 明兄はまたにっこりと極上の笑顔を見せた。

 ……ああ。明兄が限りなく黒い。

 ハルが倒れた翌日、つまり、オレたちが山野先生の研究室に行った翌日の夜、早速、学長、学園長、久保田教授が三人そろって謝罪に来た。
 その場にはオレも同席したけど、お義父さんは、こんな調書の事なんて何も持ち出さなかった。

 ……ああ、でもそう言うことか。

 と納得する。

「……だから、いきなり懲戒免職だったんだね」
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