15年目の小さな試練
 正式には学内調査をしてからだけど、まず確定だと言っていた。

 きっと、事前に送ってあったんだ。

 オレにとっては許せないことだけど、世間的には学生にちょっと厳しく指導した程度なのに、罰が重すぎると思ったんだ。

「一刻も早く、陽菜の前からは消えてもらいたかったからね」

 明兄はそう言うと、スッと立ち上がってハルの元へと向かう。

 そして、枕元の椅子に座ると、愛しげにハルの長い髪を手に取った。オレはそんな明兄の後ろからハルを覗き込む。

 ふんわり柔らかな雰囲気のハルと、硬質な空気で全身を覆っているような明兄の間には、兄妹だけどあまり似ているところがない。

 少し茶色がかった緩いカーブを描くハルの髪に対して、明兄は漆黒のストレート。黒目がちの大きな目をしたハルに対して、切れ長の目をした明兄。
 どちらも、ちょっと見ないくらい整った綺麗な顔をしているけど、まるで系統が違う。

「明兄」

「……なに?」

 オレが知ってる限り、明兄に彼女がいたことはない。

 だから、不安になるのかな?

 ハルはオレの奥さんなのに。

「彼女できた?」

「それは、どういう質問?」

 ……明兄の冷たい視線が刺さる。

「あ……いや、ただ何となく」

「なるほど?」

 オレを一瞥して、明兄はハルに視線を戻す。

 あー、で、結局、質問には答えてくれないのね。

 明兄がハルの頭をそっとなでているのを眺めつつ、諦めてソファに戻ろうと踵を返したところで、明兄が言った。

「彼女が欲しいと思ったことは、今まで一度もない」

「……え?」

 明兄の言いたいことが分からない。
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