15年目の小さな試練
「あ、ハルちゃん! 久しぶり。邪魔してごめんね?」

 人混みから抜けたところで、わたしに気が付いたらしい谷村くんは、カラリと笑う。
 カナと同じく長く空手をやっている谷村くんは、背の高さはカナとほとんど変わらないけど、カナよりもガッチリした体格をしていた。

「いいえ。ゆっくり話して下さい」

 そう笑いかけると、谷村くんは少し困ったように頭に手をやった。

「えーっと、ハルちゃん。俺たち同い年だし、これからは同じ学校に通うんだし、できたら敬語じゃないと嬉しいな」

「あ、ごめんなさい!」

 これまで数えるほどしか会ったことがなかったけど、これからは同じ大学に通うんだから、もしかしたら日常的に会うことになるかも知れない。

「そう言えば、そうだよね。えっと、じゃあ、敬語はやめるね」

「ありがと」

 谷村くんはにこりと笑った。それから、カナに視線を合わせるととても嬉しそうに言った。

「叶太、空手部入らない?」

 空手部?
 そう言えば、大学から配られた一覧にあった気がする。

 そんな事を思いながらも、話は聞かない方がいいかなと、わたしはカナと谷村くんから目を反らした。すると、新入生の勧誘をする先輩方が目に入る。今いる場所は、まさに空手部のブースの裏手だった。

 もしかして、谷村くんは既に入部を決めたのかも知れないと思い当たる。

 白い道着を着た先輩たちが、男女問わず十人近くいて、

「初心者も経験者も大歓迎でーす!」

 とか言いながら、チラシを配っていた。

 体格がいいとは思えない相手にも関係なくチラシは配られていた。初心者も大歓迎と言うのは、言葉だけじゃないのかも知れない。
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