15年目の小さな試練
「まずは、気軽に体験しに来て下さい! 見学も歓迎でーす」

 そう言いながら、道行く新入生にチラシを渡しているのは、可愛い感じの女の先輩だった。
 道着こそ着ているけど、とても武道をするようには見えない。けど、明るい笑顔にスラリと伸びた手足は見るからに健康そうに見える。

 カナだって、知らなければ空手の有段者だなんて分からない。もしかしたら、この人も強いのかな?
 そんなことをぼんやり考えていると、

「ハール」

 トントンと軽く肩を叩かれて、我に返る。

「お待たせ」

 声のした方を見ると、カナが笑顔でわたしの顔をのぞき込んでいた。

「何見てたの?」

「え? あの、空手部なんてあるんだなと思ったら、そこで勧誘してるみたいだったから……」

「見てたの?」

「うん。すごいね、あんな可愛い女の人でもやってるんだね」

 わたしの感想を聞いて、カナはくすっと笑った。

「そんないかにも格闘家って感じの人は少ないかな」

「そうなの?」

「そうそう。うちの道場は普通っぽいひとが多いよな。ハルちゃんも一度見においでよ。道場でも空手部でも。って、空手部は俺も入ったばっかりだけど」

 カナの向こうから顔を出した谷村くんが笑顔で会話に入ってきた。

「淳!」

 なぜかカナがとがめるような声を上げた。思わず、ビクリと肩が震え、カナが「ごめん」と慌てて謝る。

「ううん。大丈夫」

 だけど、カナが怒るのが分からない。谷村くんも不思議そうに声を上げた。
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