15年目の小さな試練
 それからそっと腕を抜いた。

 その動作でハルが目を覚まさないのを確認してから、ゆっくりとベッドから抜け出して、布団を整える。

「おやすみ、ハル」

 もう一度、キスをして、少し迷った後、ソファベッドからタオルケットを取ってきて肩からかぶると、ハルの枕元のイスに腰を下ろした。

「嫌な夢を見たら起こしてね」

 そう言って、ハルの手を握り、オレのためにハルが開けてくれたスペースに腕を置いてうつ伏せる。

 これなら怒られることも、呆れられることもないだろう。

 ハルの容態が悪くて心配なときは、ソファベッドで寝る気になんてなれなくて、このイスで、ハルの様子を見ながら仮眠を取るのだから。

 今はハルの体調は落ち着いている。だけど、こんな日があったっていいだろう?

「甘えてくれて、ありがとう」

 ハルはきっと、頼ってもらえて、甘えてもらえて、オレがどんなに喜んでいるかを知らない。

 ねえ、ハル。

 これからも、オレは色々間違えると思う。今回みたいに、見極めを失敗することもあると思う。

 だけど、ハルを愛する気持ちは誰にも負けないよ?

 ハルが一番望む形にしてあげたいと思う気持ちにウソはないよ?

 弱音を吐かないハル、誰にも甘えないハル。
 だけど、オレには少しずつ甘えてくれるようになった気がする。

 オレにはもっと甘えていい。もっと甘えて、頼って欲しい。男として、夫として当然の気持ち。

 ……ごめんね。病院のベッドでは、一緒に寝られないけど。

「これからも、よろしくね」

 そう言うと返事でもするかのように、ハルの手がピクリと震えた。

 オレはその指先にキスをすると、そのままハルとの明日を夢見て眠りの世界に飛び込んだ。

 (完)
< 340 / 341 >

この作品をシェア

pagetop