15年目の小さな試練
「もうすぐ結婚一周年だね」

 ハルと結婚式を挙げたのは去年の八月。あれから、もうすぐ一年が経つ。

「……ん」

 腕の中のハルが、小さく頷くのを感じた。

「夏休みになったら、また別荘に行こうね。体調がよかったら、牧場に行ったり、湖に行ったりしようか?」

 今年も夏休みの最初には、多分検査入院がある。だけど、手術の予定はないから、数日、長くても一週間以内で解放されるだろう。

 移動で多少疲れたとしても、向こうにいる間は程よい気候にハルの体調も安定する。

 問題は大学の夏休み開始が高等部より遅いことかな? 7月いっぱい、暑さの厳しいこちらで前期の試験を受けるとか、大丈夫かと今から心配になる。

 そんな事が頭を一瞬よぎるけど、今はとにかく楽しい話だ。

「明兄と兄貴も来るかな? 来年は二人とも就職だろうし、今年はきっと来るね。

 そうだ、教会にも行ってみようか。日曜日に行ったら、礼拝とかあるのかな?

 結婚記念日はどう過ごす? 久しぶりに二人でデートしようか?」

 オレが楽しい空想にふけっている間に、ハルの身体から余分な力が抜け、呼吸が寝息に変わった。

 それでも、オレはハルの眠りが本格的に深まるまで、ハルを抱きしめ続ける。

「世界で一番、愛してる」

 ハルの額にキスを落とし、そのぬくもりを、後少し、と堪能する。
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