15年目の小さな試練
「なに叶太。見学、何か問題ある?」

「……いや」

 カナが言いよどむのを見て、ふと思い出す。
 過去一度だけ、カナが出る試合を見に行ったことがある。小学生の時だったかな?

 そこで空手と言うものを初めて見たわたしは、その激しさに、誰かが誰かを殴ったり蹴ったりという状況に驚き、具合を悪くした。
 力一杯蹴られた誰かが吹っ飛んでいくとか、誰かが誰かを連打しているとか、誰かが誰かを蹴り倒すとか、始めて、格闘技のそんな激しさを目の当たりにした衝撃で心臓の動悸が止まらなくなった。

 驚きで硬直し、心臓のおかしな動きのせいで顔色が悪くなったわたしに、一緒にいた沙代さんとお兄ちゃんはすぐに気が付いた。
 即座に、わたしは体育館の外に連れ出され、結局、せっかく行ったのに、カナの試合を見ることもできず、そのまま会場を後にした。

 あれは競技であって、喧嘩とか殴り合いではない。だけど、あの時のわたしには、それがよく分からなかった。

 そもそも、空手というのをよく知らないままに見に行ったのがいけなかったのかも知れない。
 その後、試合の応援に誘われることはなくなり、その事に疑問を抱くこともないまま今に至る。

 だけど思い返すと、何となくだけど、あれ以来、カナが空手の試合に出る回数は激減した気がする。中学生以降、激減と言うより、出ていないのではないかと言うくらい、聞かなくなったもの。
 あの時、確かカナは県の強化選手に選ばれていたと聞いた気がする。その後、全国大会にも出たとか何とか。それって結構強かったんじゃ……。
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