15年目の小さな試練
「叶太さん」

「あ、はい」

 目の前の研修医のお兄さんが、真顔で俺を見ていた。
 ごめん。忙しいよね。こんなところで考え事はダメだよな。

「看護師長から、生活における注意があるそうなので、奥の処置室に宜しいでしょうか?」

「はい」

 インフル感染で、いい年した大学生に直接生活の注意なんて、する必要があるはずない。しかも師長さんから。あっても注意点を書いた紙一枚渡せば十分だろう。
 となると当然、話はハルのことだろう。見覚えのあるお袋やお義母さんくらいの年の看護師さんに手招きされる。
 多分、4〜5年前に小児科にいた看護師さんだ。

「お久しぶりです」

 俺から声をかけると、師長さん、若尾さんは少し驚いたように目を見開いた。

「お久しぶりです。覚えていらっしゃったんですね」

 若尾さんはにこりと笑顔を見せながら、オレに椅子を勧めてくれる。
 そこに座ると療養する上での注意の他、案の定、ハルに移さないように、治るまでは別居するようにとのお言葉。

「大丈夫。昨夜、発熱に気付いてすぐから、実家に帰ってます」

 そう言うと、若尾さんは

「釈迦に説法でしたね」

 と笑った。
 そして、『インフルエンザ出席停止期間について』という紙を渡される。

「念のため、この日程にそれぞれ2日プラスして、別居しておいて下さい」

「……えっと」

 発症した後7日を経過、かつ、解熱した後4日を経過、の両方を満たす期間って事?
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