15年目の小さな試練
「あのね、晃太くん」

 帰りの車の中で、今度こそと切り出した。

「うん、どうした?」

 晃太くんは優しく微笑んでわたしの言葉を待つ。

「明日から、わたし一人で大丈夫だから」

「ん? 明日は全部は無理だけど、行きは一緒に行けるし、お昼も大丈夫だよ?」

 晃太くんはにっこりと笑う。

「えっと、朝も一人で行けるし、お昼も適当に食べるし……」

「え? ハルちゃん、俺と食べるの嫌だった?」

「そ、そんなことないよ!」

「じゃあ、明日も付き合ってよ」

 晃太くんは優しい。
 わたしが断れないように、上手く話をしてくれる。

 一体、カナは何といって頼んだんだろう?

 確かに、専門課程の方では同じ授業を受ける同級生に、高校から一緒の子は少ない。もちろん、高校から一緒の子もいるのだけど、特に仲が良い子がいないんだ。

 高2の時、カナが交通事故にあってお休みをした。その時、カナはしーちゃんや斎藤くんに色々頼んでいた。多分、そんな風に気軽に頼める友だちは、経営学部にはいない。

 だけど、一般教養の授業では週に何度かは去年のクラスメイトも一緒になる。しーちゃんや斎藤くんと同じ授業の日だってあるのだし、そこまで心配することはないと思うのだけど。

 何より、5つも年上で院生の晃太くんに頼むことではないと思う。

「あ、そう言えば、明日の一、二限はハルちゃんの授業に助手で入るよ」

「え!? 本当!?」

「うん。演習のサポート要員だけど」

「うわぁ! 楽しみにしてるね!」

「ありがと。で、授業終わったら、ランチね?」

「えっと……はい」

 晃太くんは、まるで、いい子だとでも言いそうな感じで笑いながら、わたしの頭をくしゃりとなでた。
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