15年目の小さな試練

遠慮深い妹

 火曜日、行きの車の乗るやいなや、ハルちゃんが真面目な顔をしてこう言った。

「晃太くん、やっぱり明日からは、お迎えとかしなくて大丈夫だから、ね?」

 昨日、気にしなくていいと話して納得してくれたと思ったのに。ハルちゃんはやっぱり申し訳なくて仕方がないと思っているらしい。

「ん? なんで?」

 しかし困った。

 叶太からはくれぐれもと頼まれている。一度OKしたものを、二日目にして、じゃあそうしよっかと気軽に止める気にはなれなかった。

「だって、晃太くんだって忙しいのに……」

「できる事しかしてないよ?」

 ハルちゃんは困ったように眉を寄せた。

「今日の帰りは、ハルちゃんのが一時間早いから付き合えないし」

 ニコリと笑いかけるとハルちゃんもつられたように笑顔を見せてくれた。だけど、急に何かを思い出したように表情を曇らせた。

「じゃあ、晃太くん、帰りの車……」

「ああ、大丈夫。友だち、昨日の和田に乗せてもらうから」

「和田さんも車なの?」

「そうそう。高速乗って通学してる。だから家は通り道だし」

「……迷惑じゃない?」

「いや全然。飲み会の日に和田が家に泊まってくこともあるし、お互い様だよ。それにしゃべってたら、十分なんてあっと言う間だから」

 それは本当。

 ふと思い出して、話題を変える。

「そうそう。今日、帰ってからハルちゃんちに行っても良い?」

「え? うちに?」

「昨日話してた参考書、見せてよ。おじさんがどんなのを選んだか知りたいし」

 その言葉にハルちゃんはふわっと笑った。ようやく、本物の笑顔を見ることができてホッとする。と同時に、ハルちゃんがおじさんを大好きなんだろうなと言うのが見て取れて、妙にほっこりする。
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