15年目の小さな試練
「……あのね、カナ、わたしだって成長してるんだよ?」

「ん?」

 成長? ハルの方が頭の出来が良いのは分かってるよ?

 何かを学ぶとき(運動以外なら)、オレよりハルの方が遥かに早く習得する。それを成長というのなら、ハルの成長速度はとっても速い。

 大学の勉強だって、事前の予習で大きく溝を開けられた上に、普段の授業でも吸収力がまるで違うらしくて、ハルにはまったく敵わない。
 結局、レポートや課題でもハルに論点をアドバイスしてもらったりして、オレはようやくこなしている感じだ。

「わたしね、パソコン、ちゃんと使えるようになろうと思って、練習してるの」

「ハル!?」

 待って!? オレがいないところで、なに突然無理してるの!?

 だけど、ハルはそれが当然の努力というように話す。

「わたし、いつもカナに頼りっぱなしで申し訳ないなって思って。それで、パパにタイピングソフト、入れてもらったの」

「……それ、いつから練習してるの?」

「日曜日だよ。まだまだ、上手くできないけど、前よりは大分早くなったよ」

 ハルは嬉しそうに教えてくれる。その声がとても楽しげに弾んでいたから、ダメともやめてとも言えなかった。

 だけど、

「ハル、疲れてない? 頭とか痛くなってない? 清書くらい、オレがいくらでもするから、本当に無理しないでね」

 と言いつつ、隔離されてる現在、オレはハルの課題を手伝うことはできない。

 それに何より、オレはパソコン関係ではハルを手伝うけど、肝心の内容部分ではハルにお世話になっている。
 お互い助け合ってる関係が、ハルが自立することで、一方的に頼る事になりそうなのが少しだけ怖かった。
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