15年目の小さな試練
「元気じゃないでしょ? 熱が下がらないって、カナの免疫力がウィルスになかなか勝てないって事だよね?」

 ……なの?

「その辺のことはよく分からないけどさ、ご飯も普通に食べてるし、昼間はテレビ見たり、雑誌読んだり、えーっと、たまに教科書見たりとか……あ、ハル、授業のノートありがとう! まさかメールで届くと思ってなかったから、ムチャクチャ驚いた!」

 夕食の後くらいかな、昨日と今日の分の講義レポートをハルが送ってくれたんだ。ちゃんとワードで入力してあって、更にメールにはボイスレコーダーで録ったという音声まで添付されていたから驚いた。

 スマホを持っていないハルは、大学入学時にボイスレコーダーを買っていた。体調が悪くて授業をちゃんと聞けなかった時でも、後から聞き返せるようにって。

 今までも何度か使っていたし、使い方はもちろん分かっている。だけど、パソコンに音声データを入れるなんて事、ハルはできなかったはずなのに。

 と言うか、ハルが送ってくれた講義レポートはものすごく分かりやすくて、それだけで十分理解できたから、わざわざ音声を聞く必要性を感じないくらいだった。

「ハルが自分で打ったんだよね? 時間かかっただろ? 無理しないでね? 授業のノートを見せてくれるだけで十分なんだから」

 ハルのノートは字も綺麗だし、先生の言っていることが多少散漫でも、しっかり要点をまとめて書いてあるから、本当に分かりやすい。

 それにパソコンの苦手なハルが丸二日分の講義ノートを打ち込むって、相当時間がかかったはずだ。

 ただでさえオレがいなくて無理が続いているはずのハルに、これ以上の負担をかけたくない。
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