15年目の小さな試練
 だけど、続く言葉に、ハルはもしかしたら、言わないだけでオレの心配をちゃんと理解しているのかもしれないと思った。

「だけどね、一人で大丈夫って言ったんだけどね、晃太くん、付き合ってくれるんだって。……すごく申し訳ないけど、わたし、ちゃんと付き合ってもらうから」

「え?」

 オレが思わず嬉しそうな声を出してしまった瞬間、画面の向こうでハルは少しばかり怖い顔をした。

 あ、責められてる、そう思った。

「でも、晃太くんとは、わたしが自分で話すから」

「あの……ハル?」

 ハル、兄貴と自分で話すって言った? よ、ね?

 それはいい。ハルが兄貴を邪魔に思って避けるんじゃなきゃ、いい。むしろ二人で話してくれるなら、ありがたいんだろう。

 だけど、兄貴はハルの病状を甘く見てる。と言うか、詳しくは知らない。ハルは状況を分かっていても、そこにあるもの以上は求めない。

 だからやっぱり心配で……。

「カナ、三歳になって」

「……え?」

 ハルの突然の言葉に思わず間抜け顔をさらす。

「三歳。わたしに会う前に戻って」

「……え~っと?」

「あのね、それくらい昔、カナ、何考えてた?」

「あの、さ……ハルはそれ覚えてるの?」

 思わず聞くと、ハルは我に返ったようで、大きな目を何度か瞬かせた。

「……覚えてない、かも」

 だよね?

「オレだって同じだって!」

「……そっか」

 そう言って、ハルはくすくす笑った。

 だけど譲る気はないらしい。

「じゃあ、十歳くらいに戻って」

「なんで、十歳?」

「だって、カナ、その頃はまだ他のものも見えてたと思う」

「ええ~!?」

 他のものを見ていた覚えはないけど、確かに今ほどハル一色じゃなかった気もする。

 抵抗むなしく、とにかくハルのことを考えないと約束させられた。いや、それは絶対無理だと主張したから、ハルのことを忘れる時間を作るか、他のことを考える時間を作るか?

 ……できる気がしないけど、ハルと約束したからには試さなきゃいけない。

 憂鬱だ。


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