15年目の小さな試練
 明るくて元気で、そして優しいしーちゃんと斎藤くん。二人とも教育学部。どちらも本当に、先生って職業にピッタリだと思う。

 斎藤くんの言葉を聞いて、しーちゃんは

「ええ~? 困るようなことなんて言ってないよね、陽菜?」

 と、本日の定食のコロッケをお箸で持ち上げながら、わたしに視線を向けた。

「……えっと、聞いても良い? …何を…声かけるの?」

「ええ~、そこからぁ?」

 しーちゃんの言葉に晃太くんと斎藤くんが同時に吹き出した。

「一人じゃ寂しいからランチ一緒に食べようとかさ、色々あるじゃん?」

「……あ、そっか」

 ランチを一緒にってのなら、確かに。

 でも、大体、流れで木曜日は一緒に食べてたのもあって、わざわざ頼むってのは思いつかなかった。それに、カナが晃太くんに頼んでくれたから、結局、お昼は毎日晃太くんと一緒に食べていたし。

「志穂、文句言うなら叶太にだろ。あいつがお兄さんに頼んだから、ハルちゃんだってそれ以上は誰かに話そうと思わなかったんじゃない?」

「そうそう。ごめんね、志穂ちゃん」

 わたしが謝る前に、なぜか晃太くんがしーちゃんに謝っていた。

 ほぼ初対面のはずなのに、すっかりこの場に馴染んでる晃太くんは本当にすごい。カナもとても社交的だし、こう言うところ、兄弟だなぁと思う。

「あ、いえ、最初に私を頼ってもらえなかったのは寂しいけど、実際問題、私は学部も違うし、まだ授業いっぱいでお兄さん程は自由に動けないし、叶太くんが正解なんだと思います」

 しーちゃんは晃太くんにそう笑顔で話した後、わたしの方を見て、お弁当箱のところに添えてあったわたしの左手を両手でキュッと握った。
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