異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「別の世界から来たって言ったら、信じてくれる? 日本って言うんだけど、お母さんのレシピ本が突然光りだして、気づいたらこの世界にいたの」
「……それは……」
口ごもるエドガーさんに、私はやっぱりなと落胆する。
もし、私がエドガーさんの立場でも、相手を傷つけないようにこの嘘をどうかわそうかと今頃試行錯誤しているはずだ。
「今の、忘れて──」
忘れてください、そう言いかけたとき、エドガーさんにがしっと肩を掴まれる。
「そ、それは異世界トリップかな!?」
「……うん?」
「どんなカラクリを使ったの? あ、いや、きみはさっきレシピ本が光ったって言ってたよね。それが時空移動の道具?」
目をキラキラとさせて、私の答えを今か今かと待っているエドガーさんに困惑する。
「え、私の話、信じてくれるの?」
「当たり前だよ! 発明家なら、時空旅行ができる発明を一度はしたいって夢見るはずだよ」
鼻息荒く饒舌に語るエドガーさんは、やけにテンションが高い。
私が圧倒されている間にも、エドガーさんの発明愛は止まらない。
「今はまだ時空移動、タイムトラベルの発明はされてないけど、俺がいつか作ってみせ……」
突然、言葉を切ったエドガーさんは、はあっと深いため息をつく。
「エドガーさん?」
「また、ガラクタ作りって言われちゃうな、これじゃあ」
苦笑いするエドガーさんを見て、誰かにそう言われたことがあるのだと察した。
「ガラクタが宝石に変わることだって、あるかもしれないよ?」
なにかを言わずにはいられなくて、気づいたら私はそう口にしていた。
エドガーさんは「え?」と、真意を探るような眼差しを向けてくる。
「エドガーさんの発明がいつか、誰かを救うかもしれないよ? ほら、現に私もエドガーさんが時空移動の発明をしてくれたら元の世界に帰れるから、助かるなーって」
素人の私が発明を語るのはおこがましいけれど、周りの意見に押し潰されて、自分の夢をガラクタだと言わなければならないエドガーさんに居ても立ってもいられなかった。
「そ、それだけじゃなくて、いつか色んな世界に旅行に行けるようになるかも! それって、エドガーさんの発明が誰かにとって忘れられない思い出になるかもしれないってことだよね。ほら、やっぱりガラクタじゃない」
力説すれば、エドガーさんは口を半開きにしたまま動かない。
私は熱く語りすぎたことに気づいて、頬に熱が集まるのを感じているとエドガーさんは自分の長い前髪をくしゃりと握って俯いた。
「発明のこと、バカにされなかったの……初めてだな。雪さんにそう言われると、自分のしてることが間違ってないんだって思えてくる」
「間違ってるとか、間違ってないとか、そんなの誰かが決められることじゃないよ。エドガーさんの人生なんだもん、信じた道がエドガーさんにとって正しい道だよ」
偉そうなことを言ってしまったけれど、エドガーさんは嬉しそうにはにかんでいた。
エドガーさんは、私の話を信じてくれた。
それが本心であることは、あの時空移動を語る無邪気なエドガーさんの顔を見ていたらわかる。その純粋さが胸に染みた。
「俺のことはエドガーでいいよ」
「なら、私のことも雪って呼んで」
少しだけ打ち解けられたような気がした私は、エドガーと一緒に【リックベル商店】と書かれたお店の前にやってくる。
みずみずしい野菜に見たこともない調味料、赤身の多い柔らかそうな肉。
並んでいる商品のどれもが新鮮で品揃えがいいのがわかる。
「見かけない顔ですね」
商品を見ていると、十五歳くらいのヴァイオレットの髪と瞳の少年が店の奥から出てきた。