異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「俺も初めて耳にした食材だよ。そのトマトカツ……どん? という料理も知らないな」
「そっか、この世界には『トマトカツ丼』ないんだ……」
それどころか、醤油やみりんまで存在しないらしい。
私は顎に手を当てながら悩んだ挙句、調味料の売り場まで歩いていき、オリヴィエを振り向く。
「あの、とびっきりしょっぱい調味料ってありますか? それと乾燥昆布とか、ダシになりそうなものを教えてほしいんだけど……」
漠然とした注文にオリヴィエは眉間にしわを寄せつつ、調味料をピックアップして私に味見させていく。
その中で【プランブラン】というボトルに入った調味料が醤油の色と味に酷似していた。
みりんはなくてもお酒と砂糖で代用できるので、あらかた食材は揃った。
「これで大丈夫……って、ああ!」
大事なことを思い出して叫ぶと、オリヴィエは耳を塞いで「なんですか!」と抗議の目で睨みつけてくる。
その圧に押された私はエドガーの背に隠れつつ、おずおずと白状する。
「ここまでしていただいたのに、申し訳ないのですが……お金がありません」
「はああ!?」
オリヴィエは外行きの丁寧な口調を崩して、怒りのこもった雄叫びをあげる。
私は肩をびくつかせながら、ますますエドガーの白衣にしがみついて、オリヴィエに謝る。