異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~


「俺も初めて耳にした食材だよ。そのトマトカツ……どん? という料理も知らないな」

「そっか、この世界には『トマトカツ丼』ないんだ……」


それどころか、醤油やみりんまで存在しないらしい。

私は顎に手を当てながら悩んだ挙句、調味料の売り場まで歩いていき、オリヴィエを振り向く。


「あの、とびっきりしょっぱい調味料ってありますか? それと乾燥昆布とか、ダシになりそうなものを教えてほしいんだけど……」


漠然とした注文にオリヴィエは眉間にしわを寄せつつ、調味料をピックアップして私に味見させていく。

その中で【プランブラン】というボトルに入った調味料が醤油の色と味に酷似していた。

みりんはなくてもお酒と砂糖で代用できるので、あらかた食材は揃った。


「これで大丈夫……って、ああ!」


大事なことを思い出して叫ぶと、オリヴィエは耳を塞いで「なんですか!」と抗議の目で睨みつけてくる。

その圧に押された私はエドガーの背に隠れつつ、おずおずと白状する。


「ここまでしていただいたのに、申し訳ないのですが……お金がありません」

「はああ!?」


オリヴィエは外行きの丁寧な口調を崩して、怒りのこもった雄叫びをあげる。

私は肩をびくつかせながら、ますますエドガーの白衣にしがみついて、オリヴィエに謝る。
< 13 / 204 >

この作品をシェア

pagetop