異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「すみません、すみませんっ。意図せずこの国に来ちゃったから、この国……っていうか、この世界のお金を持ってないの。で、でも、空腹で困ってる人がいて、譲ってもらうわけには……」
「いきませんよ。お金がないなら出て行ってください、商いの邪魔です」
私から興味を失ったのか、笑顔をすっと消して彼は店の奥へ消えようとする。
その背を絶望的な気持ちで見送っていると、エドガーが慌てたように「待って!」と声をかけながら自分の懐やら白衣のポケットやらを漁りだす。
「あれ、どこにしまったっけ」
「エドガー、なにしてるの?」
「ああ、探し物を……あった! オリヴィエ、これを今回の支払いにあてられないかな?」
エドガーがズボンのポケットから取り出したのは、バラの形をした透明な石のブローチだった。
それを受け取ったオリヴィエは太陽に翳したり、目から遠ざけたり近づけたりして感嘆の息をこぼす。
「これ、クリスタルじゃないですか! この程度の買い物なら、お釣りが出ますよ。いいでしょう、取引成立です」
「本当に!? エドガー、ありがとう!」
オリヴィエが食材を売ってくれることになり、私は思わずエドガーの腰に抱き着く。
エドガーは驚きつつも私を受け止めて、「どういたしまして」と眉尻を下げながら笑った。