同期は蓋を開けたら溺愛でした
20.溺愛のその先は

「じゃ、抱いても平気?」

 その『抱いても』が『抱きしめる』ではない意味合いを含んでいてドギマギする。

「もっと言えば、課のやつらはまだいるから旅館の大浴場には行けないだろ? ここ、運良く露天風呂付きなんだよね」

 なんだか雲行きが怪しくなって、私は先回りして断りを入れる。

「い、一緒には入らないからね!」

 それなのに、大友は甘い雰囲気を崩さない。

「タオル巻けばいいだろ。な、入ろう」


 大友に押し切られる形で、露天風呂に一緒に入らざるを得なくなった。

 ガラス窓を隔てた内庭へは、縁側のように小上がりになっていた。
 その小上がりになっている端に、丸い檜風呂が置かれている。

 内庭の壁で囲われた小さな空間は、木々が風に揺れて風情がある。

 どうせなら、風に揺られる葉を眺めながら、1人でのんびり浸かりたい。

 それなのに……。

「こ、こっち見ないでよ!」

「タオル巻いているんだろ?」

「そうだとしても!」

 先に入っている大友を極力視界に入れないようにして、離れた場所に体を浸ける。
 縮こまって座り、風情を楽しむ余裕はない。


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