ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
思いつくまま気の向くままにあたしはほっつき歩いた。

傾斜を下って行くと、長い草に隠れていた小川が姿を現す。山の上から流れてきているようだ。

水面が太陽を反照し、水際には淡い青紫色の小粒な花が群生している。確かこの植物はオオイヌノフグリだ。

しゃがんで手を浸してみた。身を切るように冷たい水が、指の間をすり抜けていく。

飲めるだろうか。飲んでみよう。

両手を使って水を掬った。手首の内側を伝う滴が、透明な宝石みたいに見えた。

口に少し含んでみる。微かに甘い。そうしているうちに口の中の水が生温かくなってきた。

どうやらあたしは飲み込み方を忘れているようだ。

喉の奥を開き、ちょろっと水を流し込む。

「ゲボッ」
 
まずい。気管に入った。あたしは胸を押さえながら激しくむせ返った。

涙目になりながらひいひい悶え、そしてまた笑った。

水も上手く飲めないのが何だか可笑しかった。

ふう、と手の甲で涙と唇を拭う。

あたしは清流の流れに沿って歩くことにした。

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