ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「自転車に乗っていて、君は事故にあったんだよ」

その言葉を黙って聞いた。黙っていることしか出来なかったわけだが。

「交差点でトラックと接触したんだ。覚えているかい?」

爪楊枝の先程にも記憶がなかった。〈いいえ〉と二度瞬きする。

両親が固唾を呑んでいた。塾に行く途中だったことは身に覚えがある。

見える範囲だけでも、自らの置かれた状況を見極めようと目玉を動かす。天井、間接照明、広い病室、仕切りになるピンク色のカーテン、ベッドの脇に何かの機械、その機械から聞こえる微かなモーター音。先生、看護師さん。パパとママ。

「どこか体は痛むかい?」

痛いというより、重い。差し当たり、二回瞬きした。

一呼吸後に穏やかに彼は告知した。

「君は事故にあって、頭蓋骨と首の後ろの骨を折ったんだ。それで頸髄を損傷した。体が動かせないのも、声が出ないものそのせいなんだよ。ここまで分かったかな?」

ケイズイ? 骨? そうか、骨折したせいで体がうまく動かないのか。

一度瞬きした。

良かった模試でと思っていた。

本番の試験の日じゃなくて良かった。この時まではそう思っていた。

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