ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し

夕刻の残陽も尽き果て、暮夜の半天には星がキラキラと瞬いていた。

住人の足音が近づいてきているのには、一切気が回らなかった。

それ程目の前のイチゴに、あたしの欲求を司る視床下部は魅せられていたのだ。

サクッと枯葉を踏むような音で、やっとあたしの煩悩丸出しの行動に歯止めが掛かる。

「……誰?」

女の声だった。その人が手にしたランプをこちらに向ける。

若い女の人が不審げに目を細め、こちらを凝視していた。

その女性は、〈大草原の小さな家〉的な素朴なワンピースとエプロンを着けていた。

一度躊躇った後、おずおずとあたしは視線を返した。

女の人はランプを取り落とす。ガチャンと割れて火が消えた。

「きゃあああっ!で、出たー!」

彼女の口から出てきた悲鳴に驚愕し、あたしは50センチくらい飛び上がって一目散に逃げた。

石垣があったので、そこに身を潜める。

巣穴から外部を警戒するミーアキャットのごとく、ひょっこりと顔を出してみる。

追ってきている様子はなかった。

ひと安心し、あたしは冷たい石に背中を預ける。


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