ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し

バタバタと慌しい足音をさせ、老人が長い物を手に再度登場した。

それが何か判明した瞬間、あたしの膝ががくがくと笑いだした。

老人が向けているのは猟銃だった。

初めて目の当たりにした本物の銃に竦んでいると、物騒なその老人が高らかに宣言する。

「わしはまだ耄碌もうろくしとらんぞ!」

彼は引き金に指を掛ける。

あたしは直ちに本日二度目の逃亡を図った。

茶色い柵をひらりと飛び越え、人気のない暗闇に姿を眩ませた。

「何で? 何で? 動機は?」と口の中でぶつぶつ転がす。

村の明かりが遠ざかり、月明かりに変じる。

古い鉄製の門扉が見えてきた。蔦が何重にも絡まり、夜目にも不気味な風情だ。

ぜいぜいと喘ぎながら振り向くと、村の方角から点々とした蛍のような灯火が、こちらに向かってくるではないか。

追っ手だ。追い掛けられている。

思い当たるふしのないあたしは頭を抱えた。

いや、一つある。イチゴだ。

門扉の向こう側に、背の高い尖塔のシルエットが見えた。教会かもしれない。 

背後の光の群れが、蛍火から豆電球くらいに成長している。
いずれ取り押さえられるのは時間の問題か。

よし、ここに逃げ込むしかない。

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