ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し

体をそろそろと起こして、落雷を受けたかのように痺れる尾てい骨を摩る。

頭から落ちなくて良かったと心の底から感じた。

兎にも角にも、ひょこひょこと隠れる場所を模索した。

壊してしまった木戸から漏れ入る月光を頼りに、仄暗い地下室を、暫定障害物センサーに為り代わった手を、前方に伸ばしながらひた歩く。

ぺたぺたという裸足の足音がやけに大きい。 

あたしは半袖の寝巻き一枚という、病室のベッドから脱走した闘病患者のような格好だった。

どこかで服を調達せねばと自分が目論んでいることに、我ながら苦笑する。

10メートル程探査したところで、行き止まりになってしまった。

建物の大きさからもっと奥行きがありそうだったのに。

立ち塞がっている黒っぽい壁に手を這わせる。その壁は脆くぽろぽろと剥げ落ちた。

湿り気のあるざらついた手触り。土だ。

地下室を見回す。

がらんとした地下室は、蝶番でぶら下がったままの木戸以外に、扉らしきものはなかった。

避難場所の目処が断たれ、途方に暮れた。

土壁からにょきっと突出した箇所がある。

あたしは深く考えもせず、そこに右の肘を乗せ、溜息混じりに頬杖を突いた。

「いやはや参ったな」

体重を掛けた瞬間がくっと肘が落ち、心臓がびくんと跳ねた。

壁の出っ張りが壊れたのかと最初は思ったが、よく見ると出っ張りはまだそこに現存している。

ただ、あたしが体重を掛けたせいで、それの向きが少し変わっていた。

「なあんだ」と胸を撫で下ろす。たまげて損をした。

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