ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し

ダイニングには写真が飾られている。

銀や赤銅色のフレームに入って、それは無秩序に壁や棚に並んでいた。

中にはあたしが会ったことのない人達の写真もあった。

概ねこの人がヒメだろうと目星を付ける。

ヒメはその名に相応しく、まさしくお姫様みたいな女の子だった。

小さな顔に、大きく聡明な目と清楚な口が完璧なバランスで配置され、毛先にまで愛らしさが行き渡った黒髪が輪郭を彩っている。

ヒメからは断崖の裂け目から落ちる一筋の滝のような、凛としたオーラを感じた。

彼女がどこに行ってしまったのか。誰も教えてはくれない。訊けない雰囲気もあった。

写真のヒメは決まってナオヤの隣にいた。

恋人同士だったのだ。

誰かに訊かずとも、そんな親密な空気感が二人の間には漂っている。

写真の中のナオヤは、何だ普通に笑えるんじゃないと突っ込みたくなるような、まろやかな微笑を浮かべていた。

今はこんな風に笑わない。

ナオヤは彼女にぜんまいを巻いてもらっていたんだろう。そして彼はお返しに彼女のぜんまいを。

彼女が不在ということは、ぜんまいを何故か巻けるあたしはまさに九死に一生、勿怪の幸いという訳だ。

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