ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
ベッドの足元で両親がやきもきしている。先生が場所を空けると、ママとパパが待ちかねたようにいそいそと寄ってきた。

ママは泣いていて、パパは泣きそうだった。

「麻奈ちゃん、麻奈ちゃん」

ママの呼び掛けに、あたしは笑って見せたつもりだった。

しかし数秒後、ママはわんわん泣きじゃくった。パパが肩を抱いてやっている。

パパとママが密着しているなんて、若い頃の写真でしか見たことがない。

一体、何事?

先生が横から眼鏡顔を割り込ませる。

「いいかい? 麻奈さん。今から僕が言うことを良く聞いてね」

彼は文節を区切るようにはきはきと話した。指で数字の一と二を表す手振りも一緒に加えて。やけに懇切丁寧だなと思った。

「『はい』の時は瞬きを一回、『いいえ』の時は瞬きを二回だ。声の代わりにこの瞬きでお返事してくれるかい? もう一度言うよ。『はい』は一回、『いいえ』は二回。分かった?」

あたしは躊躇いながらも「はい」と一度瞬きした。

ママがまるであたしが運動会で一等賞を獲った時みたいに感動していた。

これはただ事じゃなさそうだ。ますます不安が募る。

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