その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―


乃々香たちのシートに入る直前で、肩越しに振り返った広沢くんが、ニヤリと笑いながらたぶん意図的に繋いだ手を離す。

離れた手は、ほんの少しだけ汗ばんでいた。

ここまで広沢くんの思惑通りに導かれてしまったこと、とられた手を振り払えなかったこと、そして不覚にも彼の行動に少し緊張させられてしまったこと。

その全てを悔しく思う。

広沢くんと一緒にお弁当を食べられた乃々香は、終始とても嬉しそうにしていた。


初めての小学校の運動会に母親が参加できなくて不憫だなと思っていたけど、結果的に彼を連れてきたことがプラスに働いたのなら、悔しいけどよかったのかもしれない。


午後からの部のすべての競技で、乃々香は絶好調だった。


私たちに一番見て欲しがっていたかけっこでは、緊張した表情でスタート地点に出てきた乃々香だったけど、合図のピストルが鳴ると一瞬で表情が引き締まった。

駆け出しは2番手。

でも、中盤で追い上げて、最後は見事に一番でゴールのテープを切っていた。


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